CHIE MIHARA デザイナーインタビュー
ファッショナブルで心地良い、唯一無二の靴が生まれるまで
スペイン・アリカンテのシューズファクトリーを拠点とするブランド CHIE MIHARA(チエ・ミハラ)が、2024年9月11日(水)~17日(火)伊勢丹新宿店、翌週9月18日(水)~24日(火)日本橋三越本店にてPOPUP SHOPを初開催します。CHIE MIHARAは2004年に日本市場に参入以降、その見た目の美しさだけでなく、幅広・甲高でクッション性の高いソールを使用した抜群の着用感で、多くの女性たちに親しまれています。
今回は、新作発売に先駆けて2024年春に来日したデザイナー チエ・ミハラのインタビューの様子をお届けします。
シューズデザイナーを目指したきっかけ
子供の頃を振り返ると靴にはあまり良い思い出がなく、むしろ興味がない分野でした。幼少期を過ごしたブラジルでも身長が高い方で、欲しい靴に大きいサイズが無いことも多かったので、唯一履けるひどいデザインの靴を泣く泣く母に買ってもらいました。母と手を繋いで歩いた帰り道、自分が大人になったら足が大きい女性のためにも靴をデザインしたいと、漠然と考えたのを覚えています。
学生時代は、ファッション業界への強い憧れから日本の服飾学校に通い、グローバル展開するメゾンのデザインチームに入りますが、想像より遥かにドライで冷たい産業が自分の肌には合わないと感じ、ニューヨークに渡って彫刻の勉強を始めました。ただ、毎日アトリエで汚い作業着ばかり着ていると、やっぱりファッションが恋しくなってしまって(笑)。彫刻とファッションをどう繋げられるか考えた時、靴のデザイナーになるという目標が生まれました。
2024年2月、伊勢丹新宿店で初開催したCHIE MIHARA POPUP SHOP
履き心地の良さにリピーター続出、そのクオリティはどのようにして生まれたのか。
整形靴との出会い
私はニューヨーク州立ファッション工科大学で靴のデザインを学んだ後、インターンシップのため整形靴(※扁平足や外反母趾など足にトラブルを抱える人にとって履きやすく、歩行をサポートするための医療目的の靴)の専門店で働き始めました。デザインの学校では教わらない分野ですが、靴は常に肌に触れるもので、どのように足が体重を支えるのか、靴全体に重心を分散させるかなど、身体のメカニズムを知らずに、足にとって本当に良い靴を作ることはできないと思ったからです。
当時のニューヨークは女性の社会進出が活発で、空前のハイヒールブーム。インターン終了後も一年以上働き続けたそのお店には、あまりにも窮屈なパンプスを履いて足が変形してしまった女性をはじめ、様々な足の悩みを抱えた方が日々相談に来ました。美しく見せるために合わない靴を履いて、その結果自分を痛めつけてしまうなんて本末転倒な話。自分がシューズデザイナーを目指す上で、「ヘルシーで身体に良い靴を作る」というマインドを根元に持っておきたいと思いました。
使う人にとって“親切”なデザインであること
ファッションにおける見た目の美しさはもちろん重要ですが、私にとっては履き心地・着心地が一番大切です。例えばサンダルを作るとして、ラインを美しく見せるためストラップを付けると小指がはみ出てしまうので、少し靴幅を広げたり、ストラップの位置を調整したり。足の負担が少ないミドルヒールは野暮ったくならないよう、色の組み合わせやユーモアで可愛く仕上げたり。高い靴も安い靴も、せっかく気に入って買ったのに、足に合わずどうしても履けない状況なんて馬鹿馬鹿しいものです。履き心地に寄り添って、ほんのちょっと“親切”なデザインに工夫するだけで、その状況は変えられることだから。
私自身、仕事もプライベートも常に「今」に集中したいので、靴や洋服の着心地の悪さに邪魔されないことはとても重要です。CHIE MIHARAが2024年秋冬シーズンから新たに立ち上げた洋服ラインも、女性たちの暮らしをもっと素敵なものにしたいという発想から生まれ、着心地には相当こだわってデザインしました。「もっと親切になって、着る人のことを考える」。それが、デザイナーとしての責務だと思っています。
ユニークなカラーブロック。インスピレーションは偶然とサプライズの連続
私は、何もない真っ白な紙と向き合って何かを創造するタイプとは違って、色遊びのような実験を繰り返しながら、ふとした瞬間にアイディアが浮かびます。写真やグラフィック、絵画などのコラージュを靴のパターンに当てはめて、一つ一つの素材を大きくしたり小さくしたり、カットしたり回転させたり、色々なことを試していく過程に、偶然の発見や感動があります。普通の頭では絶対に思い浮かばないような色の組み合わせも、予想もしないタイミングで突然アイディアが降ってくる、そんなサプライズが楽しい。