2月末の新コレクションで日本とZOOMミーティングをして以来ですね。その後お元気でしたか? 社会的な交流が無くなってしまい、本当に完璧に離れ小島に閉じ込められたような気分でした。これまで自分が仕事上学んできたことって、すべて人とのつながりから学ぶことがほとんどでしたが、ここへ来て展示会はなくなるは、アポイントのすべてはZOOMの画面上だしで、「着る」喜びもどこかへ行ってしまった感じです。私はよく胡坐をかいてZOOMをしていたのでソフトで着心地のいい服を選び、あまりにも着飾らなさ過ぎの常に同じ格好だったせいでビジューがとても重要な存在になっていました。ロックダウン以来、15年ぶりに取り出したイヤリングがあって、このイヤリングのおかげでほんの少しでもセクシーで自分らしくいられるかなって。これをつけてZOOMに臨むと自然に自分らしくいられるような気がしたし、光を取り込んで少し華やかになるし、お化粧と同じ効果でしたね。
社会がこんな状況だとクリエーションのインスピレーションを求めることも難しいですか? 外に出てインスピレーションを得ることが出来ないし、ずっと家にいる時間が長くなってしまったから、容易ではないです。実際最新の秋冬コレクションは、こんな風にZOOMでしか人とつながることができなかったから、家に居る自分、ZOOMに臨む自分が最低限にセクシーでいられるように、画面に映る自分に輝きを与えられるように、拘束があるこの状況で自分が自分らしくいれるようにという思いからコレクションを作りました。
長く続くコロナ禍の拘束の中で、何が一番欠けていてつらいですか? とにかく社会的なつながりですね。ヒューマンな人と人のつながり。そこから受ける刺激も。やっぱり人生の中のお祭り的な楽しい部分やコンヴィヴィアリテ(人と会食する時の親近感等を指す)とかですね。そしてそういう人と人との交わり、ミックス感からはクリエーションに適した肥沃な土壌が生まれやすいと思います。それが現状では皆とても自分の中で閉じこもり内省的になってしまっていますから、こういう状況下で新しいコレクションを作るのは実際難しいですね。
地球にも自然にも人にももっと優しい社会が早く来ることを信じたいですね。 ロックダウンの拘束もコロナも終息した暁には行きたい場所とかやりたいことはありますか? これまであまりにも「内」にこもっていたから、やっぱり「大自然」に惹かれます。広大なスペース、地平線、海岸の絶壁を見たいなあとか、、、かつてないほど自然とのコネクションを求めているのを感じます。コロナ禍で自然が私たちにもたらしてくれるエネルギーをあらためて痛感しました。 サロンの向かいにある中庭でポーズをとってくれたマリーはいつも少女のように若々しい。 何かコロナ終息後のファッションでイメージできることは? もしかしたら、「トンドンス=傾向」とかファションショーとかファッション業界の潮流や拘束から解放されるかもしれないですね。もう傾向とかから解放されることになったら私はうれしいなあ(笑)。コロナのおかげで、もっと人生の内面的な部分に目を向け、何かを自分の中に酌みだそうとする方向に向かうのではないかと思います。「私」が本当に欲しいもの、必要なものは何だろうと考える。それはそれで、興味深いことですよね。 ファッションももっと消費は「少なく」、でも「よりベターに」消費するという方向に向かっていく気がします。 一つ確かなことは、クリエーション自体が無くなることはないということですね。 トラウマに近いような傷ついた経験、心の内面に出来たヒビのようなものから素晴らしいクリエーションが生まれてきたことは音楽や美術界でも歴史がそれを証明しています。クリエーションはそれらを修復する行為でもあると思うのです。だから今後も逆に私たちはもっともっとクリエーションが必要になる気がしますね。もしかしたらそれはまた別の新しい形で顕れるのかもしれませんが。だからファッションにおけるクリエーションも無くなることはあり得ないと思います。 私も社会的交流にちょっと飢えていたのかなと思うほどに会話がはずみ、あっという間に時間が経っていました。 そもそもMEDECINE DOUCE(メドゥスィン・ドゥース)とは直訳すれば「優しい医学」のような意味で、いわゆる正規の医学とは違うまた別な「オルタナティブ」な医学を指します。たとえば、アユーベタ療法、針、灸、自然療法等、漢方などもその一つに入るでしょう。 マリー・モントーはもともと南仏の都市のお医者さんの家庭で育ち、2000年にビジューブランドを立ち上げました。その時、自分は正規の医学でなくメドゥスィン・ドゥースのように、自分の作るビジューがそれを身に着ける女性が自分のケアをする、心と体によい何かをもたらすテラピー的な存在になって欲しいという思いでブランド名を決めたという話を、外出規制の門限19時までに帰宅するために急ぎ足になった帰路でふと思い出しました。 人の手のぬくもりとともに作られたビジュー、私たちが身に纏うアクセサリーはどれも私たちが自分らしくあるための、そして私達を癒してくれる心の媚薬なのだから、これはもう立派な『エッセンシャル』に違いありません。文章花岡 香織(はなおか かおり) 1987年に渡仏。ESDI(パリの工学デザイン学校)とパリ第8大学造形美術科卒業後、日本に帰国予定だったはずがいろいろな出会いに運命を託しているうちに気が付いたら今もパリに。。。 2001年からHPフランスのパリサイドで、フランスを中心とするフランス語圏のクリエーターと日本をつなぐコーディネート業務に従事。