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MORRIÑA / D-due
デザイナーとスペインガリシア地方を巡る vol.3


スペイン北西部、ポルトガルに隣接するガリシア州。1960年代から続く、とても小さな老舗ドレスメーカーから生まれたブランドD-due(デ・ドゥエ)は今でもその場所でものづくりを続け、ブランド設立以来、この愛すべきガリシアでの生活をコンセプトの根底に置き、コレクションを発表し続けています。2020年春夏コレクションのテーマは現地で独自に話される言語、ガリシア語で郷愁や土地への想いや愛を意味する「モリーニャ」をタイトルに制作しました。ここではその何処か懐かしいような田舎街、安らぎのあるガリシアの魅力を数回に渡り、お伝えいたします。第三弾はD-dueのものづくりの原点ともいえるアトリエをご紹介いたします。
 

「物語が生まれる場所」

 

 

D-due が拠点とするアトリエがあるのは、中心地のサンティアゴから車で小一時間のところにある、小さな港町Ría de Arousa (リア・デ・アロウサ)。初めて訪れたとき、そこにはガリシアの工芸品やアルフレドの描いた作品、見た人をワクワクさせるような世界中から独自の目線で集められた宝物で満たされていて、ここに来るまでに彼らが紹介してくれたガリシアの1つ1つがここに繋がるプレゼンテーションだったのだと気づき、当時の私は血が沸き立つほどの興奮と驚きを覚えました。
 


「ライフスタイルというものは、考えたり作ったりするものではなく、現実のものであるべきだ。」 と話すD-due のアトリエは言葉の通り、そこから見えるガリシアの風景、現地の工芸品、ならべられた軽食までひとつひとつが自然な形で調和しており、その絶妙なバランスがとても美しい。このアトリエの最大のコンセプトともいえる、まるで大自然の中に突然現れたかのような気持ちにさせる前面ガラス張りの建物をデザインしたのはチャロの弟であり、建築家のホセが師事した先生。また、内装に使われた家具はホセがデザインしたものや、彼らによって収集されたもの。工芸品はチャロの友人であり地元団体をまとめるエレーナが集め、彼らによってセレクトされ仕立てられたお洋服と同じようにショールームに並べられている。このアトリエは彼らのコミュニティーの中にある、ひとりひとりのつながりによって少しずつ積み重なり、生まれたかけがえのない場所なのです。

アトリエは1階にオフィスと商品管理、生地をカットする裁断機などがあり、2階のショールームでは新しいコレクションがディスプレイされ、一つ一つ全体感もチェックしながらデザインを決めていく。世界で唯一のフラッグシップが日本にあるD-dueの商品企画は、アッシュ・ペー・フランスを通してファンの皆様の声を反映し、ディスカッションを繰り返しながら仕上げられる。

D-dueとは二面性や二つの方向からダブルミーニング、という意味を持つ造語。物事には相反する二つの要素があり、そのどちら側からも思考し進化させることでより良いものになる、というコンセプトがある。デザイナーの二人やチームのコミュニケーションはアトリエの中だけでなく、こうした中庭でのピクニックやちょっとした挨拶の中でも行われる。


「アートの精神」
 

 


ポンテベドラにある美術大学ESDEMGAでも教鞭を取るチャロとアルフレド。アルフレドは元々画家でもあり、現在でも自らのアトリエで作家活動を続けている。そんな彼らのアトリエはさながらギャラリーのように絵画や彫刻作品が並べられており、毎シーズン発表されるコレクションと共に新しい作品も登場し、彼らの物語の一員としてこの場所で生まれ、生きていく。D-dueのコンセプトに基づいた洋服の制作はアートの制作プロセスと全く同じであり、流行に捕らわれない確固とした価値を生み出していることが、ここに訪れれば肌で感じることができる。彼らの美術大学の生徒たちは毎年インターンとしてこのアトリエでものづくりに携わり、そのノウハウを知り、世界に羽ばたいていく。また、ここでは現地のアートシーンをリードするカメラマン、グラフィックデザイナー、画家や彫刻家から建築家までが出入りし、コレクションの一部に携わる。まさにガリシア版モンマルトルの洗濯船と言えるだろう。

 

アトリエの玄関に飾られたアート作品。実は日本地図をベースに描かれたとてもユニークなもの。「D-dueのハートは日本にあるから!」ということで飾られているもので、以前はサンティアゴにあったお店に置かれていた。

過去のコレクションとともに制作されたアルフレドの絵画の数々。フラッグシップショップを作る際に、「この場所で過去の作品と今の作品が横に並んでいても、それは一人の作家の展覧会を開くギャラリーのような感覚で、"新しい"、"古い"ということで価値が変わるものでは無い事を象徴している。」というホセの言葉が思い出される。


「老舗ドレスメーカーとしての誇り」

 





スペイン/ガリシア地方は1920年代、パリでオートクチュールが栄えた時代に下請けとして縫製業が盛んになり、今でも多くの縫製工場が残っています。1960年代、チャロの母マリアが建てた"小さいけれど、クオリティーの高いドレスメーカー"としてファクトリーは設立しました。その後、バルセロナやミラノでファッションデザインを学んだチャロがガリシアへ戻り、このドレスメーカーの高い技術を世に広めるためにブランドを立ち上げることを決意、パートナーを探しているなかでギャラリーでアルフレドと運命的な出会いを果たし、1990年代に今の活動につながるデザインスタジオとして新しいアトリエが建てられます。今でもこの歴史ある場所でのものづくりと、ガリシアだからこそ出来るデザインというのが、二人のデザイナーのポリシーにもつながっており、ユニークでアート性の高い作品性はこのベースとなるファクトリーでの高いクオリティーだからこそ、美しく出来上がるのです。

チャロは、基本的にはじめにパターンを引かずに、高級な素材であっても全て本番の素材でトワルを組み、ベテランのパタンナーによって無駄なく、そして多くの人に愛される最高の着心地と唯一無二のシルエットに仕上がります。この工程は全て一貫してアトリエの中で行われ、細かいコミュニケーションの中でより精度の高いものとなるのです。

1960年代から続くファクトリーは今でもアトリエから車で10分ほどの場所にあり、そこで8人ほどのベテランの職人さんにより全ての縫製が行われます。ここで働く職人さんたちは2世代で関わっている人もおり、まさに"ファミリア”の精神で仕事が行われており、切っても切れない関係。そういう深い関係だからこそ、妥協の許されないものづくりが実現している。